乗り移り短編集
復讐
作:トゥルー


「もう終わりにしましょう・・・ハッキリ言って、あなたはわたしには相応しくなかったわ」

――そう言って、由梨は俺の前からいなくなった。
散々わがままばかり言って人を振り回しておいて、飽きたらモノのように捨てやがったんだ。

こんな仕打ちを受けて、黙っていられるか?冗談じゃない!!
俺は、由梨に復讐する決意をした。
それも、生半可な仕返しではすまさない!
男を弄んだ己れの愚かな振る舞いがどれほど罪深いかを思い知らせてやる為に、アイツの人生を無茶苦茶にしてやるんだ!

――その為の計画は、すでにある。
先日、久しぶりに実家に帰省した俺は、蒐集家だったと言う先祖が残した古道具が保管された蔵から、偶然にも曰くつきの古文書を発見した。
そこには、他人の肉体を乗っ取る術――『憑依術』が記されていたのだ。
あまりにも荒唐無稽な内容に半信半疑だったのだが、大学で考古学を専攻していた事もあって、俺はその内容の解読に成功し、見事憑依術を会得したのである。

古文書を発見した時から、俺の頭にはひとつの考えしかなかった。
そう――憑依術を使ってあいつの肉体を乗っ取り、たっぷりとイタズラをしてやるのだ!
それも、他人の目がある公共の場でな!!

大学が休みの週末、アイツは駅前のファミレスでバイトをしている。
女子の制服が可愛い事で有名な店だ。
性格は最悪だが見た目は美人な由梨は、外面もいいので店では人気店員だった。
――だが、それも今日までの話だぜ。

ひひひ、見てろよ由梨・・・?
お前の体で恥ずかしい真似をして、店にいられなくしてやる!

早速俺は憑依術を唱え、肉体から精神体を切り離した。
意識を集中し、憎らしい由梨の顔を思い浮かべる。
この術は、乗り移る相手の姿を念じるだけで、その人物の元へ瞬間移動できるのだ。

瞬く間に、俺は目的地であるファミレスに移動した。
見れば、すぐ側に由梨が立っていたのだ。

彼女は丁度、ウェイトレスの制服に着替えている所だった。
俺が真後ろにいる事にも気付かず、下着姿を晒している。

くっそ〜、相変わらずいいスタイルしてるぜ・・・
堂々と俺が覗いていると言うのに、当の由梨はまったく気付いていない。
普通の人間には、精神体の存在など感じとれないのだ。
それをいい事に、俺は久々に見る由梨のそそる後ろ姿を、たっぷりと観賞させてもらった。

姿なき覗き屋の存在など知る由もなく、由梨は鏡を見ながら髪を整えている。
ようやく着替えが終わったらしい。

――そろそろいい頃合いだろう。
俺は由梨の背後に忍び寄ると、そのまま抱き付くように体を重ね合わせ、彼女に乗り移った。

「!?」

一瞬、ゾクッと悪寒が走ったようで、鏡に映る由梨は驚いて後ろを振り返った。
取りあえず支配の力はまだ高めず、彼女の好きにさせてやる。

俺は由梨の視界から、外の世界を認識していた。
バラエティ番組などによくある、誰かの頭につけた小型カメラで見る映像のように、自分の意思に関係なく勝手に視点が移動するのが妙な気分だ。

暫く辺りを見回した後、由梨は鏡を見詰めたまま、不思議そうに小首を傾げた。
まさか自分が捨てた男が体の中に潜り込んでいるなどとは、夢にも思っていないだろう。

他人の肉体に入り込むと言う背徳的な行為に、俺は静かに興奮していた。
由梨は体調でも悪いのかと腕を摩りながら、更衣室から出て行く。
自分の身に起こった事も知らず、呑気に同僚と挨拶をしてやがる。

へっへっへっ、今のうちに精々日常を楽しんでおくんだな。
もうすぐだ。
もうすぐ、その高慢ちきな鼻っ柱をへし折って、自尊心を泥まみれにしてやる!
死にたくなるほど恥ずかしい目にあわせてやるぜ・・・!

うひ。
うひひひひひ。

「――うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

従業員たちが横一列になって朝礼をしている中、由梨は突然馬鹿みたいに大笑いした。
おっと、俺の意識が表に出ちまったか?
術者が締め付けを緩めている限り、本人の意識は表に出たままだが・・・こうして俺の意識をちょっとでも強めるだけで、容易く肉体の主導権を奪い取る事が出来るのだ。

「・・・!?も、申し訳ありませんでした・・・・・・」

いきなりの馬鹿笑いに、一斉に従業員たちが由梨を注目する。
由梨自身も、勝手に口から笑い声が漏れた為、ビックリして口元を押さえ、真っ赤な顔で周囲の人たちに謝罪した。

ひひひ、まずは1つ目。
奴にとっては、信じられないくらいの恥ずかしさだろう。
だが、まだまだこんなもんじゃすまさねえぜ?

朝礼が終わり、従業員たちは仕事の準備に入った。
由梨のやつも咳払いをして気持ちを整え、レジの方へと向かう。
と、その後をもう一人の女性店員が追ってきた。

「由梨、大丈夫?」

先程の奇行が気になったのだろう。
心配そうに顔を覗き込んできた。
確か、由梨の親友だよな?
付き合ってる頃に一度会った事がある。

「ううん、平気平気。ちょっと疲れてるのかもね」

由梨は手を振り、すっかり落ち着きを取り戻した様子で微笑んだ。

「ひょっとして・・・彼の事気にしてるの?」

「は?彼って?」

由梨はキョトンとした表情を浮かべた。

「ホラ・・・別れた元カレに後ろめたい気持ちとかあるんじゃないの?」

「あ〜、アイツの事ぉ?」

途端に、由梨の声色が変わった。
中にいるのでよく分かるが、俺に対する侮蔑の感情が湧き上がってくる。

「あんな奴の存在なんて、もうすっかり忘れていたわよ。今思い出しても、本当にドン臭い男だったわ・・・わたしと付き合えただけでも感謝してほしいくらいなのに、後ろめたい気持ちなんて持つはずないじゃないの!」

由梨は、嘲りをこめてケラケラと笑っている。
・・・クッソタレが・・・やはりそんな風に思ってやがったんだな?
静かな怒りが、俺の中で渦巻きだした。

もう、容赦しねえぞ・・・?
お前の全てを、滅茶苦茶に破壊してやるぜ!!

気付けば、店は開店時間となっていた。
暫くすると、2人組の男が店内へと入ってくる。
俺の黒い決意も知らず、由梨は早速客の案内を始めた。
手馴れた動作で席へと導き、水の入ったタンブラーを持ってくる。

では、そろそろ始めようか・・・
お仕置きの時間だぜ!

「ご注文は何になさいますか?――」

営業スマイルを浮かべながら、客に注文を伺う由梨。
その瞬間、俺はヤツの肉体を完全に支配した。

『・・・えっ!?』

急に体が動かなくなり、由梨は心の中で驚きの声を上げた。

「あっ・・・!すみまっせぇん・・・」

由梨となった俺は、手に持っていたハンディターミナルをわざと床に落とし、それを拾う為に屈み込んだ。
大きく股を開き、わざとパンツが見えるような姿勢を取る。
目の前の客は、ウェイトレスさんの無防備な姿にビックリしたようで、おしぼりを持った姿勢のまま、食い入るように俺の――由梨の股間を見下ろしている。

俺は股の間からその様子を眺めてこっそりと笑いながら、更にハンディをテーブルの下に転がす。

「ああん、奥に転がっちゃった・・・ちょっとお邪魔しますね?」

俺はできるだけ腰を突き出しながら、ゴソゴソと床を這いずり、テーブルの下に潜り込んだ。
座っていた客は無理やり体を捻じ曲げ、スカートの中を覗こうとしてやがる。
おうおう・・・男ってのは哀しい動物だねぇ?

『いやああっ!わたし、何でこんな格好を・・・何で体が勝手に・・・!?』

心の中の由梨が絶叫を上げるが、知った事か。
俺は調子づき、

「あっはぁっ☆只今、サービスタイムでぇす♪あたしのパンツを存分にご鑑賞くださ〜い」

立ち上がった後、2人に向かってスカートを捲り上げ、ショーツを見せびらかした。
もちろん、由梨は心の中で悲鳴をあげている。

『や、やめてよっ!!誰なの?わたしの身体を勝手に使ってるの!?』

俺だよ、バ〜カ!
ウヒャヒャヒャヒャ!!
いい気味だぜ!!
俺は客や店員が唖然とする中、テーブルの上にヤンキー座りすると、スカートの中に手を突っ込んでショーツを擦り下ろした。
そしてアホみたいな顔をして、テーブルの上に小便をしてやったのだ。

『いやあああああああああっ!!』

由梨の絶叫を聞きながら、俺は気持ちよさにウットリと吐息を漏らす。
これで、奴もオシマイだろう。
もう暫くこいつの体で暴れまわった後、直接会って絶望に包まれた顔を拝んでやるぜ・・・!
それで俺の復讐は完成だ!!


(おわり)



・本作品はフィクションであり、実際の人物、団体とは一切関係ありません。
・本作品を無断に複製、転載する事はご遠慮下さい。
・本作品に対するご意見、ご要望があれば、grave_of_wolf@yahoo.co.jpまでお願いします。

 戻る


inserted by FC2 system